denkifishの雑記帳

ポスドク(神経生物学・動物行動学)のちょっと長めのつぶやき

【論文紹介】ネズミの会話を覗く

ハムスターや小魚などの小動物を複数で飼育したことがある人ならば誰でも,「彼らは何を話しているのだろう?」という感想を持ったことがあると思う.今日紹介する論文は,そんな純粋な疑問への挑戦と言えるかもしれない.

www.nature.com

 

Nature Neuroscienceに掲載されてはいるが,神経活動の記録や遺伝学的操作も行われていない,純粋な行動実験のみの論文である.まぁ,雑誌の興味が手法を限定する必要もないのだから,特に問題にはならないけど珍しい類であると思う.

この論文が何を明らかにしたのか.著者らは雌雄2匹ずつのマウスを同じケージに入れてその行動と発声を観察し,(1)雄マウスが発声する超音波には種類(レパートリー)がある,(2)発声するレパートリーは行動の種類(攻撃する・逃げるなど)によって異なる,(3)発声は社会的相互作用(social interaction)をとっている相手の行動を変えうる,ということを発見した.

これだけ言うと,「そんなのコミュニケーションをとっているのだから当たり前なんで?」,と思えるかもしれない.だけど,この当たり前の実態を観察して記載するのは実はかなり困難だった.

 

複数個体の動物のコミュニケーションを解析するためには,誰がどこで何をしているときに何を言ったのか,を全て観察できなければならない.この研究グループは実は先行研究で「誰が」を知る方法を確立している.

www.sciencedirect.com

どんな方法かざっくり言うと,ケージにマイクをたくさん置くことでその音源を正確に当てるようにしたと言うことらしい.(他にも計算方法に工夫があるらしいが,そこはまだ読めていない)

「何をしているときか」はどうやって決めるのかというと,これもすでにJanelia Farmの研究グループが開発した行動自動分類ソフト『JAABA』を使用して決めている.

www.nature.com

「何を言ったのか」については,今回の論文で新しい手法を用いているらしい.基本的な戦略はマウスの発声をグループ分けするということだ.そのためにk-means法を応用したような感じの方法を使っているようだが,k-meansというと最初にクラスターの数を予め指定しなければならないため,なんか他により良い方法があるような気もする.とにかく,グループ分けすることで,発声信号の違いを使い分けているかどうかを定量的に調べることができるようになる.

「どこで」というのは言わずもがな,ビデオを見れば良いということだ.

このようないろいろな新しい手法を併せて,今回の結果が得られたということのようだ.

 

神経科学の立場からすれば,じゃぁこういったコミュニケーションをしているときに,脳はどのように働いているのか,ということを知りたくなるだろう.お互いにコミュニケーションをとっている間に神経活動を記録するという実験はすでに最近発表されている.

www.sciencedirect.com

この記録できた神経活動を,発声となんらか関連付けられたら面白そうだな,と思う.